トレイルブレーキング
トレイルブレーキ、曲げるブレーキをご存知ですか?
サーキットを走っていると、コーナーの進入でブレーキを残せ、ブレーキで曲げろなどと、先輩やインストラクターやメカニックさんに言われたことがあるんじゃないでしょうか?
日本では曲げるブレーキなどとも言われますが、海外でも同じようなブレーキのフェーズを指す言葉で、トレイルブレーキングというものがあります。この英語のフレーズ、最近では日本でも使われているのではないでしょうか?
ただ、言葉としては聞いたことがあるものの、多くの方が、曲げるブレーキ、トレイルブレーキって実際何なんだという感じだと思います。
そこで今回は、トレイルブレーキとはどんなもので、何を目的としていて、どうやってやればイイのかなどをご説明したいと思います。
トレイルブレーキを学ぶことによるメリット
今回の内容を少しでも理解できるようになると、ドライビングをプロから教わっている方であれば、プロからもらうアドバイスをより良く理解できるようになったり、
一匹狼でレーシングドライビングを磨いている方であれば、今まで以上にあなた自身を俯瞰的に解析しながら、ドライビングを向上できるようになると思います。
トレイルブレーキは何で、どこで、なぜ必要なの?
ではまず、トレイルブレーキとは何なのか?についてお話しますね。
「トレイル」という言葉の意味
まずは英単語の「トレイル」という意味を辞書で調べてみたところ、「引きずる」「引きずっていく」「跡を追う」「追跡する」などの意味が出てくるんですが、レーシングドライビングにおけるトレイルとは「引きずる」「引きずっていく」このあたりの意味が適当かなと思います。
トレイルブレーキが必要な場所
なるほど、トレイルブレーキは「引きずるブレーキ」と分かったところで、コーナーリングのどのフェーズ(段階)でトレイルブレーキは求められるんだろうということになると思います。
そこで、まずはコーナーリングのフェーズ(段階)を簡単におさらいしましょう。
まずはコーナーリングの5つのフェーズ(段階)を学ぶ
第1フェーズ 直線状態で減速する区間
第2フェーズ 減速をしながら旋回する区間
第3フェーズ 旋回のみの区間
第4フェーズ 加速をしながら旋回する区間
第5フェーズ 直線状態で加速する区間
という感じに、5つのフェーズにコーナーリングは分類できると思います。
トレイルブレーキが求められるフェーズ
その5つのフェーズの中でも、ブレーキングにだけ注目すると、第1フェーズと第2フェーズが該当するんですが、第1と第2のフェーズで求められるブレーキングは実は異なってきます。
まず、第1フェーズで行うブレーキングは純粋にスピードを落とすためのブレーキング。いわゆるフルブレーキングや、止めるためのブレーキなどと呼ばれると思います。
そして第2フェーズで行うブレーキングこそが、今回お話しているトレイルブレーキ、曲げるブレーキを行う区間になります。
トレイルブレーキが必要となりがちなコーナーの種類
5つのフェーズのうち。第2フェーズなんですね、「分かった分かった」となりそうですが、もう一つ加えておきたいのは、全てのコーナーに当てはまるわけではないという事です。
そもそも旋回速度の速い中速コーナー、高速コーナーなどでは、大きな減速が必要ない場合も多く、フットブレーキに頼ったブレーキング自体が不要な場合も多々あります。
そのような、コーナーへの到達速度と旋回速度に大差が無いコーナーでは「トレイルブレーキ」「曲げるブレーキ」の出番が無い場合が多いです。
それとは逆に、コーナーへの到達速度と旋回速度に大差があるコーナー。たとえば長めの直線の後のヘアピンコーナーやシケインなど、いわゆる低速コーナーで「トレイルブレーキ」「曲げるブレーキ」の出番は多くなります。
どんなシチュエーション、どんな場所、どんなタイミングでトレイルブレーキが必要な「場合がある」のかを理解していただいたところで、トレイルブレーキが必要な理由を次にお話ししたいと思います。
トレイルブレーキングは、なぜ必要なのか
第3フェーズ「旋回のみの区間」でのスピード
トレイルブレーキが必要な理由を考える場合に、キーになってくるのは、コーナーリングの第3フェーズ「旋回のみの区間」だと私は思っています。
「旋回のみの区間」は、ほぼ一定の弧(コーナー半径)をえがきながら、ほぼ一定の速度を維持して、車の向きを変えることに集中する区間なんですが…
第2フェーズ「減速をしながら旋回する区間」の重要性
「旋回のみの区間」でそれを実現するためのお膳立てをするのが、第2フェーズ 「減速をしながら旋回する区間」の役割であり、
トレイルブレーキをいかにして有効かつ効率よく実行するかで、「旋回のみの区間」へスムーズにつながるかが決まります。
つまり、それこそがトレイルブレーキが必要な理由となります。
達成したい2つのゴール
では、何をお膳立てすればよいのか、今回は、数あるゴールの中でも、最も大切な二つのゴールについてお話ししたいと思います。
ゴール1 (お膳立て1)「速度の調整」
「旋回のみの区間」に到達するまでに達成しなければならない何よりも大切なことは速度の調整です。つまり、これから到達する「旋回のみの区間」を曲がり切れる限界速度まで車のスピードを落とすという作業が必要になります。
トレイルブレーキ中は、コーナーへの旋回も始まっているので、タイヤのグリップを減速 (縦方向)に使いながら、旋回 (横方向) にも使わなければいけません。
また、コーナーの第2フェーズでは、その開始から終了までの間に、旋回半径が徐々に小さくなっていくと思います。つまり徐々にコーナーがきつくなっていくということです。
ドライバー目線で、それが何を意味するかというと、トレイルブレーキの開始から終了までの間、その瞬間瞬間で、ブレーキペダルを踏む力を弱くしていき、それに従ってハンドルを切る量を増やしていくという作業が必要になります。
コーナーの第2フェーズと第3フェーズが交錯するまでに、第3フェーズ「旋回のみの区間」を曲がり切れる限界速度に落とせるように、現時点でのドライバーのドライビングスキルに基づいて、
トレイルブレーキの開始地点、引いては第1フェーズでの止めるためのブレーキングの開始地点を判断することが非常に重要になってきます。
以上が一つ目のゴールとなります。次にもう一つのゴールについてお話します。
ゴール2 (お膳立て2)「姿勢作り(創り)」
「ゴール1・速度の調整」をマスターして行くにしたがって自然と出来てくる面もあるんですが、第2フェーズ と 第3フェーズ が合流するゾーンに向けた姿勢作りというのも非常に大切です。
「姿勢作り」とはドライビングの各操作を絶妙に行う事で、車の前後方向、左右方向、斜め方向の沈み込みと浮き上がり、つまり車の姿勢を、ドライバー主導で調整する事と言えます。
良く皆さんもご存じの「過重移動」を、適したタイミング、適した場所、適した量で、ドライバー主導で車に起こしてあげることとも言いかえられると思います。
トレイルブレーキ中に、ドライバーがこの「姿勢作り」を怠って、雑なブレーキの踏み方、雑なブレーキの緩め方、雑なハンドルの切り方を行ってしまうと、結果的にコーナーリングの第3フェーズ「旋回のみの区間」を曲がり切れる限界速度自体を、ドライバーのせいで下げてしまうという事が起こります。
つまり、理想的なドライビングをしてあげると、時速50キロで旋回できるコーナーでも、「姿勢作り」で下手を打ったことで、時速45キロでしか旋回できない状況を、ドライバーが生み出してしまう場合もあるという事です。
2つのゴールのために求められるドライビング作業
では、ドライバー目線で、どうやって「速度の調整」「車の姿勢づくり」へ取り組むかを簡単に説明したいと思います。
第2フェーズでの作業にズームイン
このような右コーナーを例にとりますと、第2フェーズでブレーキを抜きながら、ハンドルを切り足していくんですが、「縦軸をブレーキを踏む力(使用している縦グリップ)」「横軸をハンドルを切る量(使用している横グリップ)」とするグラフと、ブレーキペダルとハンドルのイラストで表現して
第2フェーズの始まりから終わりまでを5段階に分けた場合、以下のようなイメージなります。
100のグリップを瞬間ごとに使い切る
グラフ上の①②③④⑤がのっている点線は、タイヤの縦グリップと横グリップを足した合計、つまりタイヤグリップの限界と言えますので、仮にその限界グリップを数字の100とした場合、第2フェーズ を過ごす間に、ずっと100を使い続けられれば、「とても上手く」トレイルブレーキを行えたという事になります。
ただし、これまでお話しした通り、第3フェーズ「旋回のみの区間」を曲がり切れる限界速度まで車速を落としていることが絶対条件になります。
まあ実際のところ、こんなに綺麗に、ブレーキを踏む量とハンドルを切る量を足して100ということは、物理的にも、生身の人間であるドライバー的にもあり得ないんですが、世間一般でレーシングドライビングが上手いと言われている人は、それに近いことが、かなりの頻度で繰り返して出来るということと言えると思います。
トレイルブレーキングのまとめ
今回は駆け足でトレイルブレーキ、曲げるブレーキのお話をしてきましたが、少しでもご理解いただけたでしょうか?
分かりにくかった場合は、このブログを読み返して頂くことで、是非ともトレイルブレーキへの理解を深めていただきたいと思います。
走る、学ぶ、走る、学ぶの繰り返し
そして、今後サーキットで走られる際には、そのサーキット、車、タイヤ、環境、あなたのスキルのパッケージで、トレイルブレーキが必要となるコーナーで、何度も何度も意識、無意識問わずに走り込んでいただきたいと思います。
走る、今回のお話を復習する、そしてまた走る、という事を繰り返すことで、さらにドライビングスキルをアップして頂けると思いますし、そういう癖をつけると、ご自分の走りを俯瞰的にご自分自身で観察する能力がより早い速度で成長すると思います。
理解力アップと自己分析能力の向上
また、ドライビングをプロから教わっている方であれば、そのプロからのアドバイスが以前よりも耳に入ってくる、腑に落ちる、という事が起こってくると思います。
サーキットで走っていると、ドラテクに関してアドバイスをしてくるのがお好きなお仲間もいると思いますが、そんな方からのアドバイスですらも、この人はこういう意味で言っているのかな?という風に、多面的に理解する能力が自然と身についていくと思います。
サーキット走行という実践武装と、今回お話した内容の理論武装で、今後ともレーシングドライビングスキルを磨いていただければと心より願っております。
では今回のお話は以上になります。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回のブログでお会いしましょう!