お題
今回は「サーキット走行の事故を防ぐ!やってはいけないアクセル操作とその回避法」をお話しします。
このブログ記事を読むと、サーキット走行で「やってはいけないアクセル操作」とは何なのか、
やってしまったときに起きること、何故やってしまうのか、何故やってはいけないのか、やらなくするコツ、
そして、やってしまった場合の対処方法をお話ししますので、サーキット走行、特にコーナー出口で、スピン、コースアウト、
事故やクラッシュを回避するコツを学ぶことができます。
導入
私はサーキット走行の経験が少ないかたの助手席でコーチングをさせて頂く機会が多いんですが、
そのような方々の希望のひとつは、サーキット上で、スピンやクラッシュを起こさないことだと感じています。
レーシングドライビングコーチのお仕事としては、ドライバーさんが思わずやってしまう、
「やってはいけないドライビング操作」を修正したり、未然に防いだり、
未然に防げず、例えばスピンが起こりつつある場合は、解決するための協力をしたり、という対応を助手席から行っています。
サーキット走行で5000人以上のドライバーさんの「やってはいけないドライビング操作」を助手席からライブで見てきたわたくしなりに、
先日それらの操作を紙に書き出してみたら、なんと20個ほど思いついたんですが、
その20個からさらに絞り込んで、ドライビングコーチの立場として、最も修正が難しく、最も未然に防ぐことも難しいドライビング操作。
つまり、最も「やってはいけないドライビング操作」を、20個の中からひとつ抽出しましたので、今回はそれをご紹介します。
やってはいけないアクセル操作とは何か
その「最もやってはいけないドライビング操作」とは、ずばり「旋回フェーズ / 旋回+加速フェーズでの急激なアクセルオフ」です。
ここで言う「アクセルオフ」というのは「アクセルペダルを全開」もしくは「ほぼアクセルペダル全開」の状態から
「アクセルペダルを完全オフ」もしくは「アクセルペダルをほぼ完全オフ」に急激に変動させる、という意味とさせて頂きます。
「急激なアクセルオフ」を行うことによって起きることは、「急激なオーバーステア」です。
オーバーステアとは車の後ろ側がズルっと滑ることで、ドリフト状態に陥ることとも表現できると思います。
他の言い方をすれば、例えば右コーナーを旋回中であれば、車に旋回して欲しい度合い以上に、車が右回り、時計回りに、駒のようにクルっと回り出す現象です。
「急激なアクセルオフ」を行ってしまった際のコーナーの旋回速度や、その瞬間に使っているギア(例えば3速なのか4速なのかなど)によっても、
オーバーステアの量や、滑るスピードや、唐突さは異なってきますが、おおむね、低速コーナーではス―! 中速コーナーではズルっ!! 高速コーナーではスパーン!!!という感じに滑ることが多いです
表現が抽象的で分かりにくかったですが。平たく言いますと、高速コーナーで「急激なアクセルオフ」を起こした時の方が、より「急激なオーバーステア」が起こる場合が多いです。
スピンしてしまっても、グラベルや草の上などで終結すればよいのですが、時にはコース脇のタイヤバリアやクラッシュパッドやガードレールやフェンス。
サーキットの最終コーナーであれば、ピットとコースを遮るコンクリートの壁などがある場所で、
車の後ろ側が駒のように突然クルっと回るような状況になれば、残念ながら、ドライバーさんにも車にも、とても「痛い」エンディングが待っているかもしれません。
なぜ急激なアクセルオフを起こすとダメなのか
「旋回フェーズ / 旋回+加速フェーズでの急激なアクセルオフ」が起こる場所は、その名の通り、タイヤグリップを横方向へ最大限に使っている「旋回フェーズ」と、
タイヤグリップの横方向への使用量を減らしていきながら、加速方向、縦方向へのタイヤグリップを増やしていく「旋回+加速フェーズ」になります。
そして、「急激なアクセルオフ」を思わずやってしまう理由のひとつは、ドライバーさんが「あっ!コーナーを曲がり切れない」と判断した場合が多いと感じます。
ドライバーさんにそう判断させてしまう理由は、「旋回フェーズ」や「旋回+加速フェーズ」で、車のフロント側がコーナーの外へ外へと向かっていき、コースが足りなくなると思って、「急激なアクセルオフ」を咄嗟にやってしまうパターン。
「急激なアクセルオフ」を思わずやってしまうもうひとつの理由は、「旋回フェーズ」や「旋回+加速フェーズ」で車のリア側がほんの少し滑りだしたことにリアクションしてしまうパターンだと思います。
では、何故「旋回フェーズ / 旋回+加速フェーズでの急激なアクセルオフ」をやってはいけないのでしょうか?
それは、サーキット走行におけるドラテクの中でも、「急激なアクセルオフ」は、もっともと言ってよいほど、突発的に、オーバーステア、ドリフト状態を生み出すからです。
突発的なオーバーステアと言うのは、プロドライバーであっても、修正をすることが困難な場合があるぐらいですので、
サーキット走行の初心者や中級者のように、経験が浅いかたにとっては、突発的なオーバーステアへの対処は、相当に困難な可能性が高い事がご想像いただけると思います。
「旋回フェーズ / 旋回+加速フェーズでの急激なアクセルオフ」は、「ドライビングコーチの立場として、最も修正が難しく、未然に防ぐことも難しく、
もしもドライバーさんがやってしまったら、最もクラッシュに繋がりやすいドライビング操作」だとお話ししましたが、
そうお話しした理由は「最も単純かつ瞬間的に誰でも起こすことができてしまう、踏み込んでいるアクセルペダルを突然抜く」という、
瞬間的かつ不意に行えるシンプルなドライビング操作であるために、同乗しているドライビングコーチでも、リアクションが困難であるという意味でした。
なぜ急激なオーバーステアが起こってしまうのか
ではなぜ、突発的にオーバーステア、ドリフト状態になってしまうのでしょう?
それは、車の前後方向の荷重が、瞬間的かつ急激に変化することが原因です。
アクセルペダルを踏んだ状態から突然アクセルを抜いてしまうと、エンジンブレーキが掛かり、車が前のめりになります。
つまり、瞬時に、フロントタイヤ2本への荷重が増えて、車の前側ではグリップアップすると同時に、リアタイヤ2本への荷重が減って、車の後ろ側ではグリップダウンするという状況が発生します。
具体的に車全体で何が起こっているのか、状況を想像してみてください。
「瞬間的に」フロント側がグリップしやすい状況になると同時に、「瞬間的に」リア側が滑りやすい状況になると、
なんとなく「瞬間的に車のフロント側がサーキットに固定されて、つんのめるような感じになり」
「車のリア側が、固定されたフロント側を軸にして、駒のように唐突に回り出す」
そんな風になりそうと想像できないでしょうか?
突然のアクセルオフ、突然のエンジンブレーキで生み出せる、突然の前後の荷重変化の度合いというのは、サーキット走行の初心者や中級者の方の想像を絶するものであることを、是非覚えておいてください。
回避のコツ
では、どうすれば、「旋回フェーズ / 旋回+加速フェーズでの急激なアクセルオフ」によって起こる
突発的なオーバーステア、ドリフト状態を回避することができるのでしょうか?
ドライバーが「あっ!コーナーを曲がり切れない」と思うような状況を無くせばよいのですが
まず一番に気を付けたいのは、旋回フェーズ / 旋回+加速フェーズで、むやみやたらにアクセルを踏み足していかないことです。
別の言い方をすれば。旋回速度をむやみやたらに上げていきすぎないとも言えますし、まだ旋回中の車に対して、むやみやたらに加速を要求しないようにすることとも言えます。
このような、むやみやたらにアクセルを踏み足していくタイプのドライバーさんは、助手席にいるドライバーコーチ目線で申しますと、本当にたくさんおられます。
車としては「まだ加速は無理ですよ」という状況なのに、ドライバーさんがそれを感じることが出来ずに、どんどんアクセルを踏んでいってしまうパターンもあれば、
特にアクセルの踏み方、抜き方の癖の部分では
「アクセル開度0%」か「アクセル開度100%」の2種類しかアクセルワークのボキャブラリーが無いかた、
つまり アクセルを全く踏まないか 踏むとしたら全開のみしかアクセル操作を出来ないかたも、かなりの数おられます。
車とタイヤとサーキットの路面と重力が生み出すグリップには限界があります。
横方向にグリップをたくさん使っている、「旋回フェーズ」や「旋回+加速フェーズ」での車、タイヤには、縦方向(加速方向)に使うグリップは残されていません。
切っているハンドルが真っすぐな状態に戻っていくときにのみ、縦方向のグリップが生み出されていく、つまり、切っているハンドルが真っすぐな状態に戻っていくときにのみ、アクセルペダルを踏み足していける、という意識を持ちましょう。
また、サーキットの道幅を、ある程度十分に使えているかの確認も必要です。
知らず知らずのうちにサーキットの真ん中を走ってしまい、アウトインアウトという基本的な走行ラインから大きく外れていないかも確認しましょう。
コーナーの形状やコンディションによっては、アウトインアウトがベストなレーシングラインではない場合もありますが、大幅にライン取りを間違えたり、勘違いしていないかの確認は重要です。
ちなみに、綺麗なライン取りを実現するために最も大切なコツはふたつ、
ひとつは、これまで過去に取ってきたライン取りを元に、これから通過しようとしているコーナーで、どのようなレーシングラインを取るようにするかの、大まかなプランニングを、そのコーナーへの進入前に完結させておくことです。
そして、もうひとつは、目線を上手く使い、コーナーリングの段階ごとに、正しい場所へ目線を送ることです。
例えば、クリッピングポイント(コーナーのイン側。
アウトインアウトのインに当たる部分)に付けるまでは、クリッピングポイントにしっかりと目線を合わせる。
そして、クリッピングポイントに付けた際には、コーナーの出口、脱出で、車に最終的に到達して欲しい、コーナーの出口ポイントに、しっかりと目線を合わせることです。
色々とコツをお話ししましたが、つまりは、「旋回フェーズ / 旋回+加速フェーズでの急激なアクセルオフ」を、思わずやってしまう状況に陥らないのがキモとなります。
日本では「広場トレーニング」などと呼ばれる、広大なアスファルト路面のエリアにパイロンを置くなどして行うサーキット走行のトレーニングがあります。
「広場トレーニング」のイギリスでの名前は、「スキッドトレーニング」などと呼ばれ、ドラテクを磨くための超骨格とも言えるものですので、
何も当たるものがないアスファルトの広場や、ほかにも氷上や雪上やダート上でも良いと思いますが、安全な環境で、
「急激なアクセルオフ」を実際に経験してみて、何が起きるかを感じてみて、
どう対処すればよいのかを理論的かつ実践的に学ぶことも、非常に有効なトレーニング方法だと思います。
急激なアクセルオフとオーバーステアへの対処法
とは申しましても、「旋回フェーズ / 旋回+加速フェーズでの急激なアクセルオフ」を起こしてしまうのは世の常です。
いまここで偉そうに話しているわたしも、20歳そこそこの頃に、鈴鹿サーキットの超高速コーナー、130Rの旋回から出口あたりで
「急激なアクセルオフ」をやってしまいまして、コーナー出口のイン側の壁に向かって、ブーメランのように飛んで行ったことがあります。
これは、私の運転が下手だったことが理由ですが 笑
ここでは、実際にコーナーの旋回フェーズや、旋回+加速フェーズで「車がスピンしそうになった場合」や、「もうすでにスピンしてしまった場合」の対処法をお話します。
いずれの場合にしても、まず基本的には、「本来」車に綺麗に向かって行って欲しかった、コーナーの脱出ライン、コーナーの出口ポイントに視線を送るようにしましょう。
「本来」行きたかった出口ポイントを見ることで、車の旋回モーメントを消す方向、車を真っすぐ方向に向けていくためのドライビング操作を、より自然に、ドライバーが行える可能性が広がると思います。
では次に、「車がスピンしそうになった場合」の対処法をお話しします。
「車がスピンしそうになった場合」というのを、リアは滑り出したが、それを、アクセル操作、ハンドル操作、ブレーキ操作などで制御して、上手く立て直せそうな状況と仮定しますと、
まず、コーナーの出口、アウト側にターマックのエスケープゾーン(逃げ場所)がある場合は、エスケープゾーンへはみ出すぐらいのイメージか、実際にはみ出すことで、少しでも車の旋回するモーメントを減らし、車を真っすぐ方向に向かわせる努力をしましょう。
これによって、ハンドルを少しでも真っすぐに戻せられれば、縦方向にグリップを配分できるようになり、その余剰分の縦グリップを加速や減速に有効利用できますので、リアの滑りが消えやすい方向に状況が傾きます。
「車がスピンしそうになった場合」で、もしも、エスケープゾーンが無い、もしくはほとんど無い場合は、状況的に選択肢として選べるのであれば、その状況に陥った時点でのアクセル開度を維持するか、
可能であれば、それよりも少しだけ減らしたアクセル開度を維持して、車に出来るだけ加減速を起こさないようにして、
縦方向のグリップの使用量をほぼ一定に維持、つまり、車の前後方向の荷重変動を極力小さくして、
まずは、ドライバーと車にとって、横方向のグリップをより感じやすい態勢を整えましょう。
それと同時に、既に車のフロントタイヤ側をきっかけに、自然と発生しているはずのマイルドな逆ハンドル、カウンターステア
(ちなみに、逆ハンドル、カウンターステアというのは、例えば、右コーナーなのに、左へハンドルを切っている状態です。)
逆ハンドル、カウンターステアを、微妙に調整しながら旋回を続け、車がコーナーの終わり、旋回の終わりを迎えて、横方向、旋回方向のモーメントが減りだして、直線的に車が転がり始めるところまで耐え抜くか、
リアの滑りが収まったタイミングでスローダウンすることで、まずはそのコーナーを無事に脱出してから、
一度、フルスイングでのレーシングスピードで走行する事を停止して、次のストレートなどで、しっかり脳へ酸素を送りこみ、
心身ともにリフレッシュしてから、改めて走行ペースを上げていきましょう。
では、「もうすでにスピンしてしまった場合」についてですが、その場合は、出来るだけ強くブレーキペダルを踏んで、基本的にはスピン状態の車をまずは完全に停止させる努力をすることが一番大切です。
その間も、可能であったり、その余裕があれば、「本来」車に綺麗に立ち上がって行って、向かって行って欲しかった、コーナーの脱出ライン、コーナーの出口ポイントに視線を送るようにしましょう。
そして、結果的にスピン状態の車を何とか完全停止できそうな際に、必ず気を付けなければいけないのは、
完全停止の前にブレーキペダルを緩めて、超低速でレーシングライン上を不意に横切ったり、どちらに車が動くのかが分からない、後続のドライバーさんの不意を突くような動きをしないことです。
後続車両がレーシングスピードで、スピンしているあなたの車の横を走り抜けて行く可能性がありますので、
あなた自身にとっても、後続車両にとっても、基本的には、まず第一に、あなたとあなたの車を完全停止させることが、最も安全につながる可能性が高いです。
そして、不運なことに、「もうすでにスピンしてしまった場合」で、上手くリカバリーや完全停止がかなわずに、相当なスピードで、いよいよコース脇の障害物に当たることになりそうな場合は、
当たる直前まで、ブレーキを強く踏むことで、減速に最善を尽くしつつも、あなたの車が壁に当たる寸前に、ハンドルから手を離すように意識しましょう。
特に操舵を担うフロントタイヤ側が壁に当たる際に、タイヤ側、トラックロッド側からの逆流とも言える入力で、あなたの車のハンドルが凄まじい勢いで回転運動を起こす可能性があり、いとも簡単に指、手、腕を怪我してしまう可能性が高いからです。
是非覚えておきましょう。
このブログ記事のまとめ
今回は「やってはいけないアクセル操作」として、「旋回フェーズ / 旋回+加速フェーズでの急激なアクセルオフ」についてお話ししました。
車のフロント側がコーナーの外へ外へと向かって行った時や、車のリア側がほんの少し滑ってしまった場合に、「急激なアクセルオフ」をやってしまうことが多いですよ、とお話しし、
「急激なアクセルオフ」を行うと、かなり唐突なオーバーステア、リアのスライドが起こり、立て直すのには高いスキルが求められるので、
サーキット走行の初心者や中級者にとっては理想的な状況ではないので、「急激なアクセルオフ」は「やってはいけない」操作とお話ししました。
また、唐突なオーバーステアが起こる理由は、唐突にフロントのグリップが上がると同時に、唐突にリアのグリップが下がるからともお話ししました。
また、「急激なアクセルオフ」を起こさないコツとしては、むやみやたらな早めのアクセルオンを控えましょう。
ライン取りを今一度見直しましょう。
ライン取りをよくするには、フェーズごとに視線を置くべきポイントを見るようにしましょう。
失敗できる環境の「広場トレーニング」に参加して「急激なアクセルオフ」で何が起こるかを体験しましょうというお話をしました。
また、「急激なアクセルオフ」をやってしまった時でも、まず基本的には「本来」車に行って欲しかった、コーナーの出口ポイントを見続けるようにしましょう。
「車がスピンしそうになった場合」は車の前後方向の加重移動をなるべく減らしつつ、リアがスライドしていない状況に戻れるように努めましょう。
「もうすでにスピンしてしまった場合」はブレーキをしっかり踏んで、車を完全停止させることをまずは目指しましょう。というお話をさせて頂きました。
今回のお話。分かりにくい部分もあるかと思いますので、何度でもこの記事を読み返して頂ければと思います。
では安全に、楽しく、サーキット走行、レーシングドライビングをお楽しみください!