F1ドライバー 角田裕毅
日本人では小林可夢偉選手以来のフルタイムF1ドライバーとなる角田裕毅(つのだ ゆうき)選手
F1史上初の2000年代生まれのドライバーとして、そしてF1の下位クラスでの大活躍から
日本からだけではなく世界中からも注目を集めるドライバーさんで
いよいよ本日3月12日から3日間に渡って行われるバーレーンでの開幕前合同テストで
フルタイムのF1ドライバーとして初の公式イベントに参加となります。
まずは、フォーミュラレースの頂点であるF1へ上り詰めた角田選手と
その角田選手を応援されてきたであろうご家族、ホンダやレッドブルを含む様々なスポンサー
彼を走らせてきた数々のレーシングチームやその関係者には
まずはその偉業達成に「尊敬」という言葉しか思い浮かびません。
さて、2020年はコロナによる緊急事態宣言(このブログを書いている時点でもイギリスはロックダウン中です)の影響で
例年に比べて私は週末を自宅で過ごすことが多かったことで
角田選手が参戦していたF2レース(F1直下のレースです)をほぼ毎戦Sky Sportsで観戦するチャンスに恵まれ
速さと強さのバランスが優れている角田選手の活躍には、いちレースファンとして楽しませて頂きました
世界選手権で日本人が活躍しているのを見るとやはり嬉しく
海外に住む日本人としても、ありがたいことに誇らしいものです!
そんな角田選手の2021年F1デビューイヤーにおける最重要課題はなんでしょうか
チームメイトのガスリーに勝つこと
F1ドライバーの最重要課題
F1(エフワン)を頂点として、F2、F3、F4などと様々なカテゴリーがあるのですが
各クラスともにドライバーが所属するチームの実力差、マシン性能差が存在します。
中でも各チームがそれぞれに車体を製造するF1では、その差が顕著に出る場合が多く
優勝できそうな車に乗らない限り、どんなに速いドライバーでもF1で勝利を収める事はほぼ不可能というのがF1界での常識となっています。
そんなF1ですが、ドライバーがどうしても負けられない直球ファイトがひとつだけ存在します。
それは同じ道具を使う「チームメイトより上位で帰ってくる(速く走る)こと」です。
現在のF1には10チームが存在し、各チームは2台の車と2人のドライバーを走らせるので
合計20台のF1マシンと、20人のF1ドライバーにより順位が競われます。
しかしドライバー個人からすれば、味方であるはずのチームメイトこそが
自分と同じ道具を与えられた最大のライバルでもあるのです。
角田選手からすると、チームメイトのピエール ガスリー選手が最大のライバルとなり
ガスリー選手よりも速く走り、上位でゴールすることこそが角田選手の最重要課題となります
角田選手がガスリーに勝てる可能性は十分にあると私は考えています
そんなことをお前に言われなくても分かっていると角田選手には怒られそうですね (笑)
ガスリー選手の実力
数字的には角田選手以上とも言える戦績でF1未満のカテゴリーで活躍したガスリー選手は2018年にF1へ昇格し
すでに丸3年間、フルタイムF1ドライバーを経験したドライバーです。
特に2020年の活躍は目覚ましく、年間成績で10チーム中7位という結果になったアルファタウリF1の実力から単純計算すれば
20人のドライバーによる年間成績で13位か14位にランクされればチームの実力通りの結果を出したと判断されてもおかしくは無い中
2020年のF1のドライバーズランキングで10位という好結果を残しました。
中でも、荒れたレースとなった第8戦イタリアGPでは
「居るべき場所で、居るべきタイミングで」戦い、訪れるチャンスを次々にモノにする
針の穴に糸を通すようなレース運びでF1での初優勝を飾るという大金星を挙げました。
つまり、ガスリー選手はF1での優勝経験者であり、結構ノリノリな感じで2021年のF1シーズンを迎えようとしています。
角田選手の実力
イギリスのメディア誌のアーカイブやウィキペディアを見ながら角田選手の戦績を紐解きますと…
2018年に日本のF4レースでチャンピオンとなった角田選手は
2019年にはヨーロッパへ渡り、F3を戦ってシリーズ9位
2020年のF2ではシリーズ3位という成績を残しました。
F1へエンジンメーカーとして参戦するホンダと、ホンダのエンジン供給先であるレッドブルレーシングを所有するレッドブルから
ダブルサポートを受けるというチャンスをその両手でガッチリとつかんだ角田選手は
両社から求められたターゲットを上回るパフォーマンスを披露することで
2021年のF1デビューのチャンスを得たことは明らかです。
オーバーパフォーマンス
F1ではチームや車の実力差が顕著と先述しました。
下位クラスのF2、F3、F4などではワンメイクと言われる通り、全ドライバー、全チームが同じ車体、エンジン、タイヤを使いますが
実際のところ、チーム間で明確なマシン性能差がある(であろう)と、我々レース関係者は理解しています。
つまり、F1未満のカテゴリーでも道具の差があるという事です。
伝統的にレッドブルではF1未満で走るサポートドライバーに「勝つチーム」(常勝チーム)をあてがう事は少なく
語弊があるかもしれませんが、角田選手の場合もその例には漏れませんでした。
ただし、F1とF1未満のカテゴリーで異なるのは
ドライバーがスーパーマンかスーパーウーマンであれば
F1未満のカテゴリーではキラッキラに輝く走りや、勝利を収める事も不可能ではなく
むしろ、その一見不可能なことを可能にする、「オーバーパフォーマンス」を魅せるドライバーを
レッドブルは探す傾向があるとみられています。
角田選手がオーバーパフォーマンスを魅せてきたことでF1への昇格をものにした一方で
ガスリー選手もまた、2017年の終わりまでに同様のオーバーパフォーマンスを魅せたことで
現在の地位を得たことは間違いありません。
そして、ガスリー選手にはF1フルシーズン3年分の経験と自信が上積みされています。
角田選手のレーシングドライバーキャリアのなかで最強のライバルになることは間違いないでしょう。
角田選手の優れた能力
語学力
F2のチームラジオ(レース中のチームとドライバーの交信)では
文法も正しいスラングを含め (笑)
角田選手の英語での優れたコミュニケーション能力が確認できました。
世界で戦うにはF1界の公用語でもある英語を流暢に話せ、理解できることは非常に重要ですが
私的にはガスリー選手よりも角田選手の英語の方が綺麗ではないかと感じています。
そして、アルファタウリに搭載されるホンダエンジンのエンジニアには日本人の方も多いでしょうから
角田選手の母国語である日本語は必ずや武器になるでしょう。
頭の良さと精神力の強さ
後ほど、角田選手「すごいな」と私が感じたシーンを紹介しようと思いますが
その中でも目立つのが角田選手の精神力の強さ、図太さです
一般的にレース中のライバルとのバトルというのは、はたから見ると激しい競り合いに見えますが
コクピットのなかのドライバー目線では
「いかに自分の走りを信じて維持できるか勝負」という戦いを繰り広げています。
そんな中、角田選手が相手選手よりも先に己を取り乱す場面はほとんど見たことがありません。
そして、F1未満のクラスでは、上のクラスへ上がれば上がるほどサーキットを実際に走る時間はどんどんと減っていくため
現代のF3やF2ではレースが始まる前のエンジニアとの事前準備が非常に重要になります。
エンジニアはサーキットの各コーナーごとに、これまでに蓄積してきた詳細にわたるデータ、静止画や動画を駆使しながら
ドライバーに対して「こんな風に走るんだよ」というディスカッションやレクチャーを行っていきます。
そしてドライバーはその情報を自分の中で噛み砕き、消化し、本番で具現化するのですが
その作業で重要なのは頭の回転の速さと記憶力の強さだと私は考えています。
角田選手も、2019年のF3、2020年のF2、その他のエクストラのレースや練習走行で
様々なエンジニアとそのようなディスカッションを行いながらレースを戦ったきたと思いますが
これまでの大活躍の原動力には、角田選手の頭の良さが大きな武器になっていることと想像できます。
極めて少ない走行時間でラップタイムをスピーディに短縮する様子を何度も魅せていました。
角田選手のこれらの武器は、さらに細かく高度なデータやエンジニアリングが使われるF1の舞台で
さらに役立つだろうと思います。その才能を存分に発揮して頂きたいですね。
体型によるアドバンテージ
現行のF1レギュレーションでは、小柄で体重が軽いドライバーに2018年以前ほどのアドバンテージは無いのですが
いまだに多少のアドバンテージがもたらされることが予想されます(ルールが許せばですが…)
これはドライバーとドライバーの装備品とドライバーシートの合計重量が80kg以上必要というルールに関するものです
角田選手のように、どちらかというと小柄で、体重が軽いドライバーにおいては
シート自体にバラスト(おもり)を付けて、この最低重量をクリアする必要がありますが
ルール上でシートのどこへバラストを付けても良いとすると
ネットで出てくる情報に基づくとガスリー選手より体重が15kg以上軽い角田選手では
シートのより低い位置にバラストを設ける事で、わずかながらも重心を低く出来ると予想されます。
この解釈が合っていたとしても、得られるアドバンテージはごくごく僅か、もしくは皆無に等しいかもしれませんが
1000分の一秒の勝負が展開されるF1では、そのわずかなアドバンテージをも生かしていけることでしょう
角田選手「すごいな」と感じた 3シーン
私がこれまでに拝見した角田選手の走りのなかで、特に印象に残った3つのシーンをご紹介したいと思います。
2018年 FIA F4 JAPAN 第3戦 富士スピードウェイ
最近は本当に便利ですね「YouTube 最高!」という感じですが
3年前のとある深夜に偶然にもネット観戦した日本国内のF4のレースで優勝していたのが角田選手でした
レース絡みのお仕事をさせて頂いていますが、いまだに角田選手の走りをナマで拝見した事がなく
動画越しで走りを評価するのはとても難しいのですが
コーナーへ入っていくポジショニング、姿勢作り、車の向きをたくさん変えるタイミングと
その際のハンドル舵角の丁寧さと少なさ
その結果からくるコーナーの旋回速度の高さと、前へ転がりやすい車を生み出すタイミングやテクニックなどなど
「俺の言った通り走っとるやないか!笑」と平気で嘘をつきたくなるような走りに惹きつけられました。
具体的には以下のYouTube動画の38分45秒から39分00秒当たりの、先頭を走る角田選手の
富士の最終、パナソニックコーナーの走り方は美しすぎます
2020年 FIA F2 最終戦の最終ラップの最終コーナー
F1昇格を確実なものにした、角田選手の2020年最後のF2レース
最終ラップの最終コーナーで、前方を走る2位のティックタム選手へ浴びせた
真綿で相手の首を締めるような追い抜きは (角田選手の実力からすれば)難易度は高いものではないかもしれませんが
そこへいたるまでのタイヤ性能のセービング運転、相手にタイヤを使わせる間合い
ややもすればコーナー入り口で仕留めようとしてしまいがちな状況なのに
ここまで追い詰めれば出口で必ず抜けると己を信じ切っている自信
などなど、角田選手の良いところが詰まった走りでした。
以下のYouTube動画の4分10秒あたりです。
2021年 F1 ミサノテスト
最新型の車両では厳格なテスト走行制限が掛けられていますが
F1では2年落ちの車を使ってのテスト走行が認められています。
イモラというサーキットで数回行われたテスト走行のYouTubeで散見される動画では
タイヤの発熱などの理由もあるのか? 単純に流出していないだけか? 中納が見つけていないだけか
角田選手のウルトラレーシングモードな走りは見られませんでしたが
アルファタウリF1の公式ツイッターで挙げられたミサノサーキットでのテストの短い動画では
だいぶんレーシングモードな走りが確認できました
まとめ
2020年の活躍により評価が非常に高く、F1での実戦経験と走行距離も大幅に多いガスリー選手を打ち負かすことは非常に難しいタスクだとは思います。
ただ、これまでの角田選手の実績と成長スピード、そして、いちファンとしての気持ちも入れまして(笑) 角田選手による打倒ガスリーは実現可能と思います!
角田選手とプロジェクトにかかわる皆さんにとって最高の2021年になるようにお祈りしております
あと、2021年もF1ドライバーのコロナ陽性は出ると思いますので、くれぐれも気をつけて頂きたいですね
いよいよバーレーンを舞台に始まる2021年シーズン前の公式テスト走行での角田選手とガスリー選手の走行予定時間は以下の通りとのことです(参照元 AUTOSPORT.COM)
まずは、条件が似たようなものになるであろう2日目午後のガスリー選手と、3日目午後の角田選手の予選シミュレーションランの結果に注目です。
2021年3月12日 金曜日
午前セッション: 現地時間10:00-14:00 (日本時間16:00-20:00) ガスリー選手
午後セッション: 現地時間15:00-19:00 (日本時間21:00-25:00) 角田選手
2021年3月13日 土曜日
午前セッション: 現地時間10:00-14:00 (日本時間16:00-20:00) 角田選手
午後セッション: 現地時間15:00-19:00 (日本時間21:00-25:00) ガスリー選手
2021年3月14日 日曜日
午前セッション: 現地時間10:00-14:00 (日本時間16:00-20:00) ガスリー選手
午後セッション: 現地時間15:00-19:00 (日本時間21:00-25:00) 角田選手